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Home»ビジネス»AIで「声」を作る側は何に気をつけるべきか|津田健次郎氏判決が開いた“声のパブリシティ権”

AIで「声」を作る側は何に気をつけるべきか|津田健次郎氏判決が開いた“声のパブリシティ権”

2026-10-05Updated:2026-10-05 ビジネス 7 Views
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AIで「声」を作る側は何に気をつけるべきか|津田健次郎氏判決が開いた“声のパブリシティ権”

生成AIで「誰かに似た声」を作るとき、AIクリエイターや企業は何に気をつけるべきなのでしょうか。

2026年9月30日、東京地方裁判所民事第46部は、声優・俳優の津田健次郎氏がTikTok Pte. Ltd.に動画の削除を求めた訴訟で、人の声は肖像と同様に人格の象徴であり、一定の場合にはパブリシティ権で保護されるという考え方を示しました。原告側代理人の平野敬弁護士は、声がパブリシティ権の対象になることを明示した判決は初めてだと説明しています。

ただし、裁判所は問題のナレーション音声が津田氏の権利を侵害したとまでは認定していません。対象の投稿とデータが訴訟中に削除されたため、削除請求そのものは棄却されています。今回の判決は、「AIで誰かに似た声を作れば違法」という境界線を引いたものではありません。

それでも、AI音声を制作、広告、SNS、映像、ゲームで使う側にとっては重要な判決です。本人の音声を学習していなくても、出力が特定の人物を想起させ、その人物の顧客吸引力を利用していれば、権利問題が生じ得るからです。

結論

AI音声の実務で確認すべきなのは、「誰の声を学習したか」だけではありません。最終的に誰の声だと認識されるのか、その人物の顧客吸引力を利用しているのか、どう表示し、どう収益化しているのか。

今回の判決は、「声」という人格的・経済的価値をAI時代にどう扱うかという議論への扉を開いたものとして読むのが適切です。

津田健次郎氏のTikTok訴訟で何が争われたのか

事件は令和7年(ワ)第70635号「投稿記事削除請求事件」です。問題となったのは、TikTok上の「八海」というアカウントが2024年7月から2025年9月にかけて投稿した188件の動画で、いずれも「都市伝説、心霊現象等の雑学」のナレーションを映像・字幕と組み合わせたものでした。

津田氏側は、ナレーション音声が自身の声に類似しているなどとして、不正競争防止法またはパブリシティ権に基づいて削除を求めました。

一方、投稿者の外部サイトには、「津田氏の声を無断でAIに学習させたものではなく、声真似が上手い友人の声をAIに学習させた」という趣旨の記載がありました。判決が認めたのはこの記載が存在したという事実であり、実際に友人の声を学習したと認定したわけではありません。動画のコメント欄には、津田氏の声に似ているという書き込みや、この説明を疑う書き込みもあったと判決は記しています。

(一次資料:東京地方裁判所 令和8年9月30日判決・令和7年(ワ)第70635号)

東京地裁が示したのは「声は肖像と同様に人格の象徴」という一般論

判決で最も注目されたのは、裁判所が人の声は、人の肖像と同様に個人の人格の象徴であると述べた点です。

そのうえで裁判所は、たとえば実演家の声などを無断で使う行為について、その声が商品の販売などを促進する顧客吸引力を持ち、使用が専らその声の顧客吸引力を利用する目的といえる場合には、パブリシティ権の侵害に当たるという一般論を示しました。

ただし、188件の投稿のナレーションがこの基準に当てはまるかどうかは判断していません。今回の意義は、個別の音声に線を引いたことではなく、声もパブリシティ権の対象になるという法的な入口を示したことにあります。

なぜ削除請求は棄却されたのか

投稿者は訴訟中の2026年5月29日にアカウントを削除しました。裁判所は、30日以内に復旧申請がなかったことから、投稿を含むデータが同年6月28日の経過をもってTikTokのサーバから削除されたと認定しました。データが本当に消えたかは分からないという津田氏側の主張は採られませんでした。

TikTok側は「訴えの利益」がないとして訴えそのものを退けるよう求めていましたが、裁判所はこれも採用していません。削除対象が存在するかどうかは削除請求権が実体として成り立つかどうかの問題だと整理したうえで、仮にTikTok側に削除義務が生じ得るとしても、削除すべき対象がない以上、請求には理由がないと結論づけました。

判決は、それ以外の争点については判断しないと明記しています。不正競争防止法に基づく主張や、TikTok側に削除義務があったかどうかについて、裁判所は判断を示していません。

判決に先立ち、法務省も「声」を含む解釈指針を公表していた

2026年8月7日、法務省は「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会取りまとめ報告書——生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針」を公表しました。生成AIによる肖像や声の無断利用が深刻化しているという指摘を受け、パブリシティ権、肖像等をみだりに利用されない権利、不正競争防止法について、現行法と判例を踏まえた考え方を整理したものです。

報告書は、声は人物を識別する情報であり個人の人格の象徴でもあるとして、パブリシティ権の保護対象に含まれることに検討会で異論はなかったとしています。顧客吸引力についても、全国的な著名性は必須ではなく、特定の分野や一部の地域の顧客に効力を持つ場合にも認められ得るとしています。

判決が一般論にとどまった部分について、AI音声を作る側により具体的な手がかりを与えてくれるのが、この報告書です。

(参照:法務省|肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会 取りまとめ報告書の公表について)

本人を学習していなくても「本人の声」と認識されれば問題になるのか

AIクリエイターにとって最も気になるのは、「声真似が上手い友人の声を学習させた」という投稿者側の説明でしょう。仮にその説明どおりだったとしても、出力が本人に極めて似ていれば問題になるのか。判決はこの点を判断していませんが、法務省報告書は具体的な整理を示しています。

判断の軸は「誰の声として識別されるか」

報告書は、本人に類似する声が使われた場合について、声の類似性の程度に加え、本人の声を想起させる付加情報などを総合的に考慮し、顧客がその声を本人の声だと識別できるかで判断するとしています(報告書26〜27頁)。声紋鑑定などの科学的分析も、考慮要素の一つにはなるものの決定的ではないとされています(脚注56)。

問われるのは音響的な一致度だけではなく、聞き手にとって誰の声として機能しているかです。

名前を明かさない声真似には侵害の余地がある

報告書によれば、物まねや声まねは通常、芸をする人自身の名前などを明示して行われるため、本人の「声」の使用には当たらず、パブリシティ権侵害にはならないと解されています。

一方で、芸をする人の名前などを明示しないまま、顧客吸引力を持つ本人の声に類似したものを使い、それが本人を示すものとして誤解されるような場合には、侵害となる余地があるとされています(報告書27頁)。AI音声でも、技術的な作り方より「誰の声として提示しているか」が大きな意味を持つ可能性があります。

学習データに本人がいなくても安心とは限らない

報告書は肖像について、学習データやプロンプトに本人の肖像が含まれていなくても、プロンプトの調整などで本人に類似した画像を出力し、それを専ら顧客吸引力を利用する目的に使えば、パブリシティ権侵害に該当し得るとしています(脚注194)。

これは肖像についての整理で、声について裁判所が判断したものではありません。それでも、「本人を学習していない」という技術的な説明だけで、本人らしさの商業利用をめぐる問題がすべて解消するとは限らないという示唆は明確です。

「AI音声です」と表示すれば安全なのか

「これは本人ではありません」「AI音声です」と表示することは重要です。ただし、その効果は権利ごとに異なります。今回の訴訟でもTikTok側は、外部サイトの記載が原告の声ではないことを明示している以上、混同は生じないと反論していました。前述のとおり、裁判所はこの点を判断していません。

法務省報告書は、不正競争防止法2条1項1号の「周知表示混同惹起行為」について、肖像を使ったブロマイドなどを販売する際に本人とは無関係であることを付記するといった打消し表示がある場合には、混同の要件を満たさない可能性があると整理しています(報告書74頁)。一方、同項2号の「著名表示冒用行為」は混同を要件としていません。津田氏側も1号と2号の両方を主張していました。

またパブリシティ権では、視聴者が本人だと誤解したかどうかだけでなく、本人の顧客吸引力を専ら利用しているかどうかが問われます。

これらを踏まえると、打消し表示は混同のリスクを下げる方向に働き得るものの、それだけで不正競争防止法やパブリシティ権の問題がすべて解消するとまではいえない、というのが編集部の見方です。

AIで声を作る側が確認すべき5項目

1. 学習元だけでなく「誰の声として認識されるか」を確認する

本人の音声を使っていなくても、出力が特定の人物を強く想起させることがあります。データの出所に加えて、最終的な類似性と提示の仕方を確認します。

2. 「似ていること」そのものを価値にしていないか確認する

「○○に似た声だから再生される」「○○に聞こえるから広告効果がある」という状態は、その人物の顧客吸引力を利用している可能性があります。

3. 収益化との関係を確認する

広告、SNS収益、商品販売、集客など、声の利用が直接・間接に経済的利益へつながる場合は、より慎重な検討が必要です。

4. 表示だけに頼らない

AI生成の明示は必要な透明性の措置ですが、それだけで権利問題がすべて解消するわけではありません。

5. 特定の人物を意図的に再現するなら許諾を基本にする

俳優、声優、ナレーター、歌手、インフルエンサーなど、実在の人物を想起させる声を商用で使う場合は、本人または適切な権利管理者からの許諾を前提に設計するのが安全です。

VTuberは一律ではありません。報告書は、実在の人の声ではないキャラクターの声には、パブリシティ権で保護される顧客吸引力は認められないとしています。一方、演者の声が実在の人物の声として識別され、その人物の顧客吸引力が利用される場合は、別途の検討が必要です。

AIクリエイターズの視点——「声」は音素材から人格資産へ

AI音声はこれまで、「音声データをどう生成するか」という技術の問題として語られることが多くありました。しかし判決と法務省報告書を並べると、声は単なる音響素材ではなく、人を識別し、その人物の信用、人気、キャラクター性を伝える人格的・経済的価値を持つことがはっきりしてきます。

本人をコピーしなくても本人らしい声を生成できるようになるほど、問われるのは学習元だけではなくなります。誰として聞こえるのか。誰の価値を利用しているのか。

編集部メモ

AI時代の権利管理では、「何を入力したか」だけを見るのでは足りません。最終的な出力が、誰の人格的・経済的価値を利用しているのか。

その判断まで含めて制作工程を設計することが、AIクリエイターにとってのこれからの実務になると考えます。

まとめ——AI音声で問われるのは「誰を学習したか」だけではない

東京地裁は、人の声は肖像と同様に人格の象徴であり、一定の場合にはパブリシティ権で保護されるという一般論を示しました。ただし本件のナレーション音声について侵害を認定したわけではなく、不正競争防止法の主張やTikTok側の削除義務についても判断していません。

それでも、AI音声を使う側にとっての論点ははっきりしています。学習元、出力結果、類似性、提示の仕方、利用目的、収益化、許諾。AI音声を商用コンテンツとして使うなら、これらを一体として設計する必要があります。

※本記事は判決と公的資料に基づく情報提供であり、個別の案件についての法的助言ではありません。


主な参照資料

  • 東京地方裁判所|令和7年(ワ)第70635号 投稿記事削除請求事件 判決
  • 法務省|肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会 取りまとめ報告書の公表について
  • 法務省|取りまとめ報告書 本文PDF(生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針)
  • 弁護士ドットコムニュース|津田健次郎さんの「声」を生成AIで無断模倣、東京地裁が「パブリシティ権」の対象と初判断
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aratama 璞|AI Creators 編集長
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企業・研究者・クリエイターをつなぐ実践型プラットフォーム「AIクリエイターズ」の創設者・編集長。アート・メディア・テクノロジー領域を横断する専門家として、複数のデジタルメディアを統括し、AIを活用したデジタルプロジェクトの企画・推進に取り組んでいる。
生成AIを単なる制作ツールではなく、事業、表現、社会実装を拡張する基盤として捉え、AIネイティブな事業設計とクリエイティブ開発を推進。米国の専門メディアで「世界の注目AIクリエイター Top 5」に選出されるなど、国際的なAIクリエイティブ領域でも実績を重ねている。自ら第一線で検証と実装を重ねる中で培った一次情報と厳格な編集視点をもとに、AIクリエイティブとAIビジネスの現在地を、深く、わかりやすく伝えている。

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