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導入 — なぜ今 “Kling Omni” が注目されているのか
2025年12月、Kling AI を開発する Kuaishou(快手)は、5日間にわたる “Kling Omni Launch Week” を通じて、新しいマルチモーダル動画生成/編集モデル群を一気に発表しました。
統合型マルチモーダル動画モデル Kling O1 と、映像+音声を同時生成する Kling Video 2.6 は、クリエイターやスタジオのワークフローを大きく変えるポテンシャルを持っています。
これにより、複数のツールや工程に分かれていた「動画生成 → 編集 → 音声付与 → 映像仕上げ」のプロセスが、ひとつの統合されたワークフローに収斂する可能性が出てきました。短期間で話題を集めているのは、この「制作フローそのものの再設計」というインパクトゆえと言えるでしょう。
Kling Omni Launch Week:発表されたラインアップ
「Omni Launch Week」は、おおまかに以下のような発表でした。
- Day 1 — Kling O1 発表:テキスト・画像・動画を横断する統合マルチモーダル動画モデル。
- Day 2 — IMAGE O1:テキストや画像から高品質な画像生成/編集を可能にする静止画モデル群。
- Day 3 — Kling Video 2.6:映像と音声を同時生成する「ネイティブオーディオ」動画モデル。
- Day 4〜Day 5:ツールエコシステム、パートナー連携、新機能(資産管理・ワークフロー改善など)の発表。
単なるバージョンアップではなく、「動画・画像・音声を統合する新しいクリエイティブ基盤」として Kling を再定義するのが、この Launch Week 全体の狙いです。
Kling O1(Omni One)とは — 統合マルチモーダル動画モデルの全貌|Day 1: Introducing Kling O1
Kling Omni Launch Week Day 1: Introducing Kling O1 — Brand-New Creative Engine for Endless Possibilities!
Input anything. Understand everything. Generate any vision.With true multimodal understanding, Kling O1 unifies your input across texts, images, and videos — making… pic.twitter.com/v7XZmvht6t
— Kling AI (@Kling_ai) December 1, 2025
何が新しいか — “統合型”モデルの定義
Kling O1 は、テキスト、画像、既存動画のいずれか、あるいは複数を入力として受け取り、生成から編集までを同一モデル/同一フレームワークで完結させる“統合型マルチモーダル動画モデル”です。
これまでの動画生成AIでは、「動画生成 → 別ソフトで編集 → 音をつける」という複数ステップに分かれていましたが、Kling O1 は一度のプロンプトで、シーン生成、スタイル指定、編集、再構成までを一気に扱える点が大きな特徴です。
主な機能・特徴
- 複数モーダルの混合入力:テキスト+画像、画像+動画、テキスト+動画といった組み合わせでプロンプトを投げられる。
- 動画生成と編集の統合:新規動画の生成だけでなく、既存動画へのオブジェクト追加/削除、スタイル変更、ショット延長などの編集にも対応。
- カメラワーク/物理挙動/キャラクターの一貫性:空間・時間を意識した映像生成で、自然な動きやライティング、構図を再現。
- 幅広いユースケース:広告、アニメ風映像、プロモーション、実験的ビデオアートなど多様な用途に対応。
旧バージョンや他ツールとの違い
従来の Kling 2.x 系や他社ツールが「生成」か「編集」のどちらかに寄っていたのに対し、Kling O1 はその両方をひとつの器にまとめた設計です。
- ツール間での書き出し・書き戻し
- リファレンス素材やスタイルの手動管理
- フォーマットやカラースペースの不整合
いわゆる「パイプラインの断絶」を減らせる点が大きなメリットといえます。
IMAGE O1 — 静止画生成/編集の強化|Day 2: Kling IMAGE O1 is Officially Here!
Day 2: Kling IMAGE O1 is Officially Here!
Input anything. Understand everything. Generate any vision.Superb Consistency, Precise Modification, Powerful Stylization, Max Creativity — IMAGE O1 brings it all! This update revamps the entire process from generation to editing,… pic.twitter.com/P4kPAjFaqm
— Kling AI (@Kling_ai) December 2, 2025
Kling Omni の一環としてリリースされた静止画モデル/機能群が IMAGE O1 です。テキストや既存画像をもとに高精細な画像生成や編集を行い、Kling の動画モデルとも密接に連携することを前提としています。
まずビジュアルコンセプト(キャラクター、背景、キーアートなど)を静止画で設計し、その世界観を起点に動画生成や編集に展開する「ストーリーボード → 映像化」という王道ワークフローを、AI前提で効率良く組むことが可能になります。
特に、複数の画像リファレンスを用いた「雰囲気」「構図」「スタイル」の統一は、ブランドやシリーズ作品で一貫した世界観を守るうえで重要なポイントです。
Kling Video 2.6 — ネイティブ音声実装による“映像+音声”の融合
何が変わったか — ネイティブオーディオの追加
Kling Video 2.6 は、映像と音声を同時生成する「ネイティブオーディオ」機能を搭載した新バージョンです。
従来は別工程だった「映像生成 → 音声/BGM/効果音の後付け」という手間を、大きく省くことができます。
主要な新機能と改善点
- 映像+音声の同時生成:ダイアログ、ナレーション、歌、環境音、効果音などを含めた一体のアウトプット。
- マルチ言語・マルチキャラクター音声:登場人物ごとの声色・トーン、複数言語でのセリフ生成。
- 環境音・効果音の自動付与:足音、街のざわめき、風や水の音、物理的な衝突音など。
- リップシンクとタイミング:キャラクターの口の動き、ジェスチャー、効果音のタイミングが映像と整合。
短編動画、ソーシャル動画、広告、プロモーション動画、アニメーション、MV など、音と映像がセットで意味を持つコンテンツにおいて、ワークフローのゲームチェンジャーとなるアップデートです。
他バージョン・他ツールとの比較|Day 3: Meet VIDEO 2.6
Day 3: Meet VIDEO 2.6 — Kling AI's First Model with Native Audio
Generate an entire experience — more than a video clip! With coherent looking & sounding output, the 2.6 model opens up narrative possibilities, and makes you "See the Sound, Hear the Visual".
With the launch of… pic.twitter.com/H5WR7jL71S
— Kling AI (@Kling_ai) December 3, 2025
旧バージョン(Kling 2.5 など)との違い
- Kling 2.5 では、モーションやカメラワーク、画質、キャラクター表現などに大きな改善があったものの、音声は含まれていませんでした。
- 2.6 では、映像面の強みを維持したまま、音声をネイティブに統合し、「完成された一本の動画」として出力できるようになりました。
他社モデル(Sora 2、Veo 3.1 など)とのポジション
多くの 動画生成AIモデルが「映像生成」が軸で、音声や編集は外部ツール/人力に委ねられていたのに対し、Kling Omni は、映像+音声+編集という制作パイプラインそのものを統合する方向に舵を切っています。
Google Veo 3.1 や Runway Gen-4、Sora などと比較したとき、Kling の特徴は「単発ショットのクオリティ」だけでなく、「ワークフロー全体をどう設計するか」という視点が強い点だと言えるでしょう。
現場の声/コミュニティの反応
公開直後から、クリエイターやブロガー、レビュー投稿者を中心に、Xやブログでの言及が増え始めています。
- 日本のブログでは、「Kling からついに ‘音付き’ の動画生成が来た」という驚きと共に、Image → Video → 編集という理想的ワークフローの実現可能性に言及する記事が登場。
- X では、「表情、声、BGM、空間音が全部つながり、数秒の動画でも映画的な密度になった」「Kling Video 2.6 で一本のショートフィルムを作る」といったポストが散見されます。
制作ワークフローの変化:クリエイター目線で何が変わるか
Day 5: Final day of Kling Omni Launch Week.
Meet Element Library — a powerful tool for building ultra-consistent elements with easy access for video generation!
Build your elements with images from multiple angles, and have Kling O1 remember your characters, items, and… pic.twitter.com/kIi0CnXdzw— Kling AI (@Kling_ai) December 5, 2025
従来:
- テキストやコンテを用意
- 動画生成ツールで映像を作る
- 編集ソフトで細部調整・カット編集
- 別ツールで音声/BGM/効果音を付与
- 最終書き出し
Kling Omni:
- テキスト+画像+リファレンス動画でプロンプト設計
- Kling O1/IMAGE O1 で世界観・キャラクター・コンテを設計
- Video 2.6 で映像+音声を同時生成
- 必要に応じて Kling で追加編集 → 最終書き出し
「どこまでを Kling 内で完結させるか」はクリエイターによって分かれますが、少なくとも “初期案〜プロトタイプ〜ショート動画” の領域では、多くの部分を一気に賄えるようになりそうです。
クリエイター向けチェックリスト:導入前に確認しておきたいポイント
ここからは、実際に Kling Omni(Kling O1/Video 2.6/IMAGE O1)をワークフローに組み込む際、クリエイター視点でチェックしておきたい項目を整理します。導入判断や検証用のメモとしてのチェックリスト表になります。
| チェック項目 | ポイント |
|---|---|
| 目的とアウトプットは明確か | ポートフォリオ/クライアント案件/SNS運用など、Kling をどの用途に使うか言語化できているか。 |
| 既存ワークフローとの兼ね合い | いま使っている編集ソフト(Premiere、DaVinci、Resolve など)とどう連携させるかイメージできているか。 |
| ハードウェア/ネット環境 | 高解像度動画を扱うためのストレージと回線速度(アップロード/ダウンロード)は足りているか。 |
| 権利・ライセンスの確認 | 商用利用の範囲、クライアント案件での利用可否、音声生成まわりのライセンス条件を把握しているか。 |
| プライバシー・機密情報の扱い | 社外秘素材や未公開案件をアップロードしないなど、インプット素材のルールが定義されているか。 |
| 音声品質の検証 | 言語・アクセント・声色・ノイズなど、Video 2.6 の音声品質が自分の案件で許容できる水準かをテストしたか。 |
| ブランド/世界観の一貫性 | キャラクターやロゴ、色味などを一貫させるためのプロンプトテンプレートやリファレンス画像を整備しているか。 |
| コストと時間のシミュレーション | 1本あたりの生成コストと時間が、既存フローよりどの程度下がる/上がるか試算したか。 |
| クライアントへの説明準備 | 「AIをどこまで使っているか」「どの部分が人の手によるものか」をクライアントに説明できる状態か。 |
| リスク時のバックアッププラン | 生成が不安定な場合やサービス仕様が変わった場合に備えた、代替ツール・従来フローは用意しているか。 |
上から順にチェックしていくことで、「とりあえず触ってみる」段階から一歩進んだ、実務レベルでの導入準備が整っているかを俯瞰できます。
考察:Kling Omni がもたらす制作ワークフローの変革
Kling Omni の本質は、「すごい映像が作れる新モデル」以上に、制作ワークフローそのものの再設計にあります。映像・音声・編集を一つのモデル/エコシステムに統合することで、以下のような変化が期待されます。
- ワンストップ制作の可能性:生成 → 編集 → 音声統合という断片的な工程が、プロンプトベースの連続的なフローになる。
- コストと時間の削減:特にショート動画/SNS動画/広告動画など、量産・高速回転が求められる領域で大きなインパクト。
- クリエイティブの民主化:従来は大規模チームや高価な機材が必要だった表現が、少人数・個人でも実現しやすくなる。
一方で、長尺作品や複雑な構成、多数キャラクターを含む映像、音楽や権利処理まわりなど、まだ検証すべき余地やリスクも存在します。
導入にあたっては、先ほどのチェックリストのように、目的・ワークフロー・権利・コストを一度整理してから取り組むのが現実的でしょう。
結びと今後予想される展開
Kling Omni — とりわけ Kling O1 と Kling Video 2.6 は、「AI動画生成」の単なるスペック競争を超え、映像制作のインフラをめぐる争いのスタートラインに立ったと言えます。
今後は、以下の要素が、Kling Omni の評価と普及を左右していくでしょう。
- より長尺な映像への対応
- 編集ツールやDCCツールとの連携強化
- 商用利用ルールやライセンスの整備
- クリエイターコミュニティによる実践ノウハウの蓄積
本記事の内容やチェックリストを参考にしつつ、自身の制作スタイルやビジネスモデルに照らして、「どこから・何に対して」Kling Omni を導入するのがベストか、ぜひ一度棚卸ししてみてください。
