生成AIによって、誰もが印象的な画像や映像をつくれる時代になりました。しかし、AIで美しいビジュアルを生成できることと、人の記憶に残る世界をつくることは、同じではありません。
これからのAIクリエイティブに求められるのは、単なるプロンプト技術ではなく、視覚言語、感情の設計、キャラクターの一貫性、物語の明確さ、そして作品全体を貫くアイデンティティです。
今回、AI Creatorsでは、オランダを拠点に活動するAImaginist / VFX Prompt Designer、Minouche Hijkoop氏にインタビューを行いました。Minouche氏は、AIシネマティック・アイデンティティ・スタジオ「Shine by Nous」のFounderであり、日本のAIクリエイターKasamacura氏とともにプロジェクト「PHI」を共同創設しています。また、Adobe Firefly Ambassadorとしても活動し、18以上の主要AIプラットフォームと関わりながら、AIによる映像表現、キャラクター設計、シネマティック・アイデンティティの可能性を探求しています。
本記事では、AI Creative Architect / Artistとして活動する aratama 璞 がインタビュアーを務め、Minouche氏の言葉をもとに、AIを新しい視覚言語として扱うとはどういうことか、そしてAIネイティブな制作がどこへ向かうのかを掘り下げます。
目次
プロフィール
Minouche Hijkoop氏|AImaginist / VFX Prompt Designer
Minouche Hijkoop氏は、オランダを拠点に活動するAI Artist / AImaginist / VFX Prompt Designerです。AIシネマティック・アイデンティティ・スタジオ「Shine by Nous」のFounderであり、日本のAIクリエイター Kasamacura氏とともにプロジェクト「PHI」を共同創設しています。
高いインパクトを持つAI画像・映像制作を専門とし、ビジュアルストーリーテリング、スタイル開発、シネマティック・アイデンティティ、キャラクターシステム、VFXプロンプトデザインに取り組んでいます。
世界で最初の20名に選ばれたAdobe Firefly Ambassadorの一人として活動し、複数の主要AIプラットフォームと関わりながら、新機能の検証、ユーザー体験の改善、プロフェッショナル制作におけるAI活用の可能性を探求しています。作品はAI Film Awards Cannes 2025に選出され、Bali International AI Film Festival 2025ではファイナリストに選ばれています。
Chapter 1 AIクリエイターは、どこから生まれるのか
Minouche氏のキャリアは、最初からAIアーティストとして始まったわけではありません。以前は建築設備エンジニアリングの分野でテクニカルマネージャーとして働き、構造、計画、コスト計算、プロジェクト提案、クライアントの技術的課題の解決に携わっていました。
AIクリエイターというと、映像、デザイン、アートの出身者を思い浮かべがちです。しかしMinouche氏の背景が示すのは、AI時代の創造性が、技術、管理、問題解決、装飾、ユーモアといった、一見離れた領域からも生まれるということです。
aratama 璞
まず、現在の制作活動に入る前のバックグラウンドについて聞かせてください。
生成AIを本格的に使う以前の経験は、いまのAIによるビジュアル制作にどうつながっていますか?
Minouche Hijkoop
もし数年前に、私がAIの仕事をすることになると言われたら、おそらく信じなかったと思います。
当時、私は建築設備エンジニアリングの分野でテクニカルマネージャーとして働いていました。構造、計画、コスト計算、プロジェクト提案、クライアントの技術的な課題解決に関わっていました。
正確さと細部への注意はとても重要で、小さなミスが、全体の結果に影響しかねない仕事でした。
同時に、コラボレーションも重要でした。2021年には、私のチームが「De Slimste Handen van Nederland」でオランダのSuperteamに選ばれました。それは、信頼、コミュニケーション、複雑な課題をともに解決する力への評価でした。
仕事以外では、熱転写ビニールやラインストーンを使ったパーソナライズ衣服のデザインをしていましたし、スタンドアップコメディを書き、演じてもいました。AIは、技術的な精度、ビジュアルデザイン、タイミング、ストーリーテリングという、これまで別々に見えていた経験を思いがけず結びつけてくれました。
健康上の理由でキャリアが変化したとき、生成AIはまったく新しい道を開いてくれました。それは、テクノロジー、創造性、ストーリーテリングがようやく一つにつながる場所でした。
Minouche氏にとってAIが、単なる新しい制作ツールではなく、これまで分断されていた経験を接続する制作言語です。
異分野のキャリアは、AI時代においては切り捨てるべき回り道ではなく、判断の素材になります。技術者としての精度、コメディで培ったタイミング、衣服デザインの造形感覚——それらをAIという一つの場でどう再編集するか。
ここに、AIクリエイティブの入口が「ツールへの適応」だけではないことが表れています。
Chapter 2 AImaginistとは何か
Minouche氏は、自身の役割をAImaginistと呼びます。
既存の「AI Artist」や「Prompt Engineer」だけでは表しきれない、独自の制作実践を示す言葉です。
aratama 璞
Minoucheさんは、ご自身をAImaginistと表現されています。
この言葉には、どんな意味を込めていますか?
Minouche Hijkoop
私にとってAImaginistとは、AIを使って想像を視覚的な現実へ変える人です。
この言葉をつくったのは、既存の肩書きでは自分のやっていることを十分に説明できなかったからです。
私の仕事は、アート、テクノロジー、ストーリーテリング、ディレクション、ビジュアルリサーチ、ワールドビルディング、制作を組み合わせています。
私はツールから始めるのではありません。アイデア、感情、あるいはまだ存在していない世界から始めます。
そこから、そのビジョンをどう可視化するかを探っていきます。キャラクターがどのように見え、どのように動くのか。どのライティングが正しいムードをつくるのか。どのカメラアングルが感情を強めるのか。
そして、個々のイメージをどのように一つの一貫した物語へ変えていくのか。
プロンプトは、そのプロセスの一部にすぎません。選択、反復、ディレクション、一貫性、ポストプロダクションも同じくらい重要です。
だから私は、AImaginistを一つの固定された職業というよりも、創造的なコネクターとして捉えています。
それは、人間の想像力と生成技術を結びつける人のことです。ツールは変わっていくかもしれません。
しかし目的は変わりません。
これまで心の中にしか存在しなかったものを、目に見える形にすることです。
「私はツールから始めるのではありません」という一節に、核心があります。
生成AIの領域では、モデル名、機能、プロンプト、アップデートが先に語られがちです。
しかし作品を成立させる起点は、感情であり、問いであり、まだ言葉になっていない違和感の側にあります。
AImaginistという造語は、創造の入口をツールから想像力へ引き戻す宣言でもあります。
Chapter 3 AI as a Language:AIを視覚言語として扱う
Minouche氏のプロフィールには、印象的な言葉があります。
AI as a language. Identity as signal.
AIを単なる生成ツールではなく、新しい視覚言語として捉えること。
そして、作品全体に通底する創造的な署名を「identity」として捉えること。この二つが、制作思想の土台になっています。
aratama 璞
「AI as a language」「Identity as signal」という言葉は、とても強いステートメントだと感じます。
AIを視覚言語として扱うとは、どういうことでしょうか?
Minouche Hijkoop
私にとって、AIは創造性の代替ではありません。アイデアを可視化するための新しい視覚言語です。
写真、映画、アニメーションと同じように、生成AIにも独自の文法があります。
学ぶべきものは、プロンプトだけではありません。
リズム、構図、カメラロジック、ライティング、動き、感情を学ぶ必要があります。
その言語を深く理解するほど、クリエイティブなビジョンをより明確に伝えられます。
「Identity as signal」とは、作品全体から感じられる創造的な署名のことです。
それは、シーンの動き方、色の選び方、カメラアングル、空気感、編集のリズムに現れます。
時には、名前を見なくても、そのクリエイターの作品だと分かることがあります。その認識こそが、アイデンティティです。
だから私は、単一のプロンプトから制作することはほとんどありません。
キャラクター、環境、シネマトグラフィ、スタイルが互いに支え合うシステムを構築します。
それらの要素が同じ言語を話すとき、結果は美しい画像の集合を超えます。独自の性格と、認識可能なビジュアル・アイデンティティを持つ一つの世界になります。
生成AIは、誰もが高品質なビジュアルへ到達する速度を一気に上げました。
だからこそ、作品の価値は単発の美しさから、作家性へと移ります。「Identity as signal」は、その作家性を言い当てた言葉です。
何を繰り返し選び、何を避け、どんなリズムと空気を作品全体に残すのか。
AIが平準化する領域が広がるほど、この一貫した判断の総体が、他と区別される唯一のシグナルになります。
Chapter 4 シネマティック・アイデンティティは、物語の人格である
Minouche氏がShine by Nousで取り組む中心テーマの一つが、AIによるシネマティック・アイデンティティです。
それは映画的な見た目をつくることではなく、物語の人格、感情の流れ、視覚言語、スタイルの一貫性を設計することを指します。
aratama 璞
Minoucheさんにとって、シネマティック・アイデンティティとは何ですか?
どのようにして、汎用的ではなく確かに生きていると感じられるビジュアル世界を構築しているのでしょうか?
Minouche Hijkoop
私にとって、シネマティック・アイデンティティとは、物語の人格です。
それはプロンプトやツールから始まるのではなく、感情から始まります。何かをつくる前に、私はまず、観客に何を感じてもらいたいのかを考えます。
その後で、その感情的な目的を軸に、視覚世界を形づくり始めます。
シネマティック・アイデンティティは、多くのつながった選択によって構築されます。
色、ライティング、カメラワーク、構図、リズム、質感、キャラクター、動き。一つひとつは小さな要素に見えるかもしれません。
しかし、それらが組み合わさることで、その世界が信じられるものになるのか、汎用的に見えてしまうのかが決まります。
私は多くの時間を、リファレンスの調査、スタイルの検証、そしてすべての要素が互いを強め合うビジュアル言語の構築に使います。
タイトルやロゴを見る前に、観客がその空気感やスタイルを認識できるようにすることが目標です。
生成AIは、私にとって可能性の感覚を変えました。テクノロジー、ストーリーテリング、想像力が自然に結びついたのです。
それは単に新しいツールを発見したという感覚ではありませんでした。自分の思考にようやく合うクリエイティブ言語を発見したような感覚でした。
注目すべきは、制作の順序です。多くのAI制作は「良い画をつくる」から始まりますが、Minouche氏はまず「観客に何を感じさせるか」という感情のゴールを定め、そこから逆算して色・光・カメラ・質感を決めていきます。
シネマティック・アイデンティティとは、個々のルックの美しさではなく、感情設計を起点に、すべての視覚判断を一方向へ統合したときに立ち上がるものです。
順序を逆にした瞬間、世界は表層的な美しさへ後退します。
Chapter 5 VFXプロンプトデザインは、クリエイティブディレクションである
「プロンプト」という言葉は、AIへ入力する一文を指すものとして受け取られがちです。
しかしMinouche氏にとってVFXプロンプトデザインは、カメラ、レンズ、光、質感、スケール、物理性、感情、ポストプロダクションを含む、映像制作全体のディレクションを意味します。
aratama 璞
VFX Prompt Designerとして、プロンプトをどう捉えていますか?
単に良い文章を書くこととは、何が違うのでしょうか?
Minouche Hijkoop
VFX Prompt Designは、単に一つの良いプロンプトを書くこととはまったく異なります。
「プロンプトエンジニア」という言葉は、完璧な一文を見つける仕事のように聞こえるかもしれません。
しかし実際には、多くの場合、本当のプロセスは最初の生成の後に始まります。
私にとって、VFX Prompt Designはクリエイティブディレクションの一形態です。
カメラの動き、レンズ、構図、ライティング、素材、スケール、物理性、連続性、感情のトーンについて考えます。
また、異なるAIモデルがどのように振る舞うかを理解する必要もあります。
同じアイデアでも、別のツールではまったく異なるアプローチが必要になることがあるからです。
強いプロンプトシステムには、反復が欠かせません。
結果を分析し、細部を調整し、シーンが正しく感じられるまで多くのバージョンを試します。
私はまた、それぞれのショットが最終的な制作の中でどう機能するかも考えます。
合成、モーショングラフィックス、調整、不完全な部分の修正、一貫した動きの構築には、ポストプロダクションが不可欠です。AIは重要な素材を提供します。
しかし、プロフェッショナルな結果は、AI、ディレクション、クラフト、従来の制作ツールを一つの一貫したワークフローの中で組み合わせることで生まれます。
ここで語られているのは、プロンプトが入口であって作品ではない、という制作観です。
最初の生成の「後」に始まる工程——採用と棄却の判断、反復、合成、修正、他工程への接続——こそが完成度を決めます。VFX領域では特に、派手な効果の生成だけでは映像として成立しません。
視線誘導、画面内の重心、ショット間の連続性、音や編集との接続まで設計して初めて、一本の映像になります。AIは強力な素材供給源ですが、それを束ねるディレクションは人間の側に残ります。
Chapter 6 断片的なアイデアを、制作に使えるビジュアルディレクションへ
AIは初期アイデアの可視化を劇的に速くします。
しかし、速く出力できることと、断片的なムードやコンセプトを一貫したビジュアルシステムへ変換できることは、別の問題です。
aratama 璞
多くのクリエイティブチームは、ムードやコンセプト、感情的な方向性を持っていても、まだ完全なビジュアル世界には到達していないことがあります。
そうした断片を、どのように制作に使えるビジュアルディレクションへ変換していくのでしょうか?
Minouche Hijkoop
私は感情を強く起点にして制作します。
そのため、画像を生成する前に、まずそのシーンや物語が観客に何を感じさせるべきなのかを理解しようとします。
その感情的な意図が、ビジュアルディレクションの土台になります。
多くのクライアントやクリエイティブチームは、断片から始まります。
ムード、アイデア、リファレンス、伝えたい感情。私の役割は、それらの断片を接続し、一貫したビジュアルシステムへ変えることです。多くの場合、物語、脚本、ムードボード、ストーリーボードをつくることから始めます。
そこでは、すべての選択が意図された感情的インパクトを支える必要があります。
AIは、プロジェクト初期に非常に価値があります。アイデアをより速く探索し、テストし、調整し、提示できるからです。
しかし、テクノロジーはクリエイティブな翻訳そのものを置き換えるわけではありません。
ストーリーテリング、心理、感情のニュアンスを理解し、ツールを明確にディレクションする必要があります。
うまく使えば、AIは抽象的なコンセプトを、ピッチ、クリエイティブ開発、計画、そして最終的には本格的な制作を支えるビジュアル世界へ変換することを助けてくれます。
鍵になるのは、Minouche氏の言う「Creative Translation(創造的な翻訳)」です。
AIはアイデアを速く見せますが、速さは深さを保証しません。断片をそのまま並べれば、ムードボードの寄せ集めにしかならない。
ばらばらの感覚を、感情・物語・視覚・制作工程という異なるレイヤーへ橋渡しし、一つの方向へ束ねる。
この翻訳能力は、AI時代のディレクターやプロデューサーが担う中核的な職能になります。
Chapter 7 生きていると感じられるキャラクターと世界
AI生成のキャラクターは、顔が魅力的であるだけでは不十分です。
物語の中でどう動き、何を感じ、どう変化するのか。その連続性がなければ、キャラクターは美しい一枚絵にとどまります。
aratama 璞
汎用的なAI出力ではなく、物語に基づく世界やキャラクターシステムを構築すると表現されています。
AI生成のキャラクターや世界が「生きている」と感じられるためには、何が必要だと考えていますか?
Minouche Hijkoop
私にとって、AI制作は主に個別の画像をつくることではありません。
最も興味があるのは、完全な物語、シネマティックな制作、そして生きていると感じられるビジュアル世界を構築することです。
キャラクターには、魅力的な顔やデザイン以上のものが必要です。
人格、感情、ボディランゲージ、認識可能な振る舞いが必要です。画像を生成する前に、そのキャラクターが誰なのか、どのように動くのか、何を感じているのか、物語を通じてどのように成長するのかを考えます。
こうした選択が、ビジュアルの一貫性の土台になります。
キャラクターを取り巻く世界についても同じです。ライティング、色、シネマトグラフィ、建築、音、空気感、ペースが互いに支え合っていなければなりません。
そうして初めて、その世界は信じられるものになります。
一貫性は、AI制作における最大の課題の一つです。多くのシーンを通して同じキャラクター、スタイル、空気感を維持するには、構造化されたワークフロー、継続的な反復、そして多くの場合ポストプロダクションが必要です。
私にとって、AIはあくまでツールです。本当の目標は没入です。
観客がその作品のつくられ方を忘れ、物語に引き込まれたとき、その世界は本当に命を持ったのだと思います。
AIキャラクター制作では「同じ顔を保てるか」という一貫性が注目されがちです。
しかしMinouche氏が問うのは、その一段先——同じ「存在」として振る舞っているかです。
表情、間、反応、成長、音との接続。それらが積み重なることで、キャラクターは交換可能なビジュアルアセットから、観客が記憶する固有の存在へ変わります。
AIネイティブなキャラクター表現は、外見デザインだけでなく、行動原理や感情の連続性まで含む設計領域へ広がっています。
Chapter 8 完璧なAIツールは存在しない
Minouche氏は、Adobe Fireflyをはじめ、Runway、Kling、HAILUO.AI/Minimax、Wonder Studiosなど、18以上のAIプラットフォームと関わっています。
その経験から見えてくるのは、完璧なツールは存在しないという現実です。
aratama 璞
複数の主要AIプラットフォームと関わるクリエイティブパートナーとして、プロフェッショナルな制作において本当に価値のあるAIツールとは、どのようなものだと考えていますか?
Minouche Hijkoop
18以上のAIプラットフォームと仕事をして学んだのは、完璧なツールは存在しないということです。
すべてのプラットフォームには、それぞれ異なる強みと限界があります。
だから私は、人気よりも、制作のどの段階にどのツールが合うかを重視します。
プロフェッショナルなクリエイターにとって、モデルの品質だけでは不十分です。
価値あるツールは、信頼性があり、意味のあるクリエイティブコントロールを提供し、既存のワークフローへ自然に組み込める必要があります。
一貫した結果、強いキャラクター参照、正確なカメラ制御、柔軟性、直感的なユーザー体験は、重要な要素です。
クリエイティブパートナーが貢献できるのは、実際の制作状況でこれらのツールを使っているからです。
どこでワークフローが失敗するのか、どの機能が時間を節約するのか、どの制約がクリエイターに問題を生むのかを見ています。
その実践的なフィードバックは、企業がより良いモデルだけでなく、より良いプロダクトをつくる助けになります。
責任ある開発も同じくらい重要です。
透明性、クリエイターへの敬意、コミュニティからのフィードバックへの真剣な姿勢は不可欠です。
最高のイノベーションは、開発者とクリエイターが、技術的進歩と実際の創作ニーズの両方を意識しながら協働するときに生まれます。
AIツールの評価は、しばしば画質や生成速度に偏ります。
しかし現場で問われるのは、モデル単体の性能ではなく、キャラクター参照、カメラ制御、安定性、チーム制作への組み込みやすさ、ポストプロダクションとの接続です。これらが揃って初めて、AIは「実験」から「制作環境」へと移行します。
そしてその移行を早めるのは、実制作で摩擦を経験しているクリエイターからのフィードバックにほかなりません。
Chapter 9 Adobe Firefly Ambassadorとして見る、責任あるクリエイティブAI
Minouche氏は、世界で最初の20名に選ばれたAdobe Firefly Ambassadorの一人として、Fireflyの発展を早い段階から見てきました。
その経験は、生成AIが実験的な技術にとどまらず、プロフェッショナルなワークフローへ入っていく過程を理解する機会になったといいます。
aratama 璞
Adobe Firefly Ambassadorとして、生成AIがプロの制作環境へ入っていく過程を近くで見てこられました。
責任ある、クリエイターにとって望ましいAIとは、どのようなものだと考えていますか?
Minouche Hijkoop
世界で最初の20人のAdobe Firefly Ambassadorの一人として、私はFireflyの発展を早い段階から見ることができました。
それによって、生成AIが単なる実験的な技術ではなく、プロフェッショナルなクリエイティブワークフローの一部になっていく過程について、貴重な理解を得られました。
プロフェッショナル用途では、信頼が不可欠です。
アーティスト、ブランド、制作チームには、信頼できるツール、透明性、そして既存のクリエイティブソフトウェアと自然につながるワークフローが必要です。AIは創造性を支えるべきであり、それを置き換えたり、クリエイターを分断されたシステムへ押し込んだりするべきではありません。
最も印象に残っている経験の一つは、2025年10月にロサンゼルスでAdobe MAXに参加したことです。
他のアンバサダーたちと直接会ったことで、すべてのAIツールの背後には、アーティスト、開発者、デザイナー、映像作家、クリエイターといった実際の人々がいて、意味ある進歩へ向かって取り組んでいるのだと実感しました。
責任あるAIには、日々これらのツールを使う人々の声に耳を傾けることも必要です。
そのフィードバックが、使いやすさ、クリエイティブコントロール、アクセシビリティ、制作品質の改善につながります。
クリエイターにとって望ましいAIは、技術的な障壁を取り除き、ストーリーテリング、感情、アイデアにより多くの時間を使えるようにするものです。
そこにこそ、AIが最も大きな違いを生む可能性があります。
AIの議論では、効率化や自動化が強調されがちです。しかしMinouche氏の言葉が指すのは逆の方向です。
AIが本当に価値を持つのは、人間から創造性を奪うときではなく、人間が感情、物語、アイデアに向き合う時間を増やすときです。
ツールが技術的な障壁を引き受けるほど、クリエイターは判断と表現へ集中できます。
責任あるAIとは、この時間の再配分を守る設計思想そのものだと言えます。
Chapter 10 AI映画は、技術的スペクタクルを超えられるか
Minouche氏の作品は、AI Film Awards Cannes 2025に選出され、Bali International AI Film Festival 2025ではファイナリストに選ばれています。
国際的なAI映画シーンは急速に拡大する一方、まだ過渡期にあります。
aratama 璞
国際的なAI映画・AIクリエイティブシーンを、現在どのように見ていますか?
この分野が技術的な見せ場を超えて成熟するためには、何が必要だと思いますか?
Minouche Hijkoop
私の作品がAI Film Awards Cannesに選出され、Bali International AI Film Festivalでファイナリストになったことは、とても光栄です。
これらの映画祭は、AIがクリエイティブなメディアとしてどれほど速く発展しているか、そして世界中の多くのクリエイターが新しいストーリーテリングの形を探求していることを示しています。
同時に、この分野はまだ移行期にあります。
多くの注目は、技術的なスペクタクルに向けられています。印象的な画像、複雑なプロンプト、ドラマチックな効果。それは理解できます。
しかし、観客が記憶するのは技術そのものではありません。物語と、それが残す感情です。
私にとって際立って見える作品は、必ずしも最も技術的に複雑なものではありません。
テクノロジーがほとんど見えなくなり、キャラクター、感情、物語に完全に奉仕している作品です。
次の段階は、映像作家、脚本家、編集者、VFXアーティスト、サウンドデザイナー、AIスペシャリストのより強い協働にかかっています。
技術が安定するにつれて、焦点は「どのようにつくったか」から「なぜつくったのか」へ移っていくべきです。
その変化が、この分野を成熟させます。
AI作品の初期段階では、「どうやってつくったか」が注目されます。
どのツールか、どんなプロンプトか、どれほど難しい技術を使ったか。しかし文化として成熟するとき、問いは「なぜつくったのか」「何を残したのか」へ移ります。技術が見えなくなった後に、作品が物語、感情、キャラクターとして残るか。
この問いに耐える作品が増えることが、AIクリエイティブを一過性の流行から持続的な創作文化へ近づけます。
Chapter 11 PHI、日本、そして異文化コラボレーション
Minouche氏は、日本のAIクリエイター Kasamacura氏とともにプロジェクト「PHI」を共同創設しています。
その始まりは、ビジネスプランではなく、共有されたクリエイティブビジョンでした。
aratama 璞
日本のKasamacura氏と共同創設されたPHIについて聞かせてください。
どのようなビジョンから生まれ、日本とのコラボレーションはMinouche氏の制作にどのような影響を与えていますか?
Minouche Hijkoop
PHIは、ビジネスプランではなく、共有されたクリエイティブビジョンから生まれました。
Kasamacura氏と私は、トレンドや慣習に制限されずにオリジナル作品をつくりたいと考えていました。
その実験する自由が、PHIの土台になりました。
私たちのスタイルはとても異なります。そして、それこそがコラボレーションがうまく機能している理由です。
私たちは互いを真似しようとも、コントロールしようともしません。
代わりに、お互いが自由にアイデアを探求することを促し合っています。
私たちは、Kasamacura氏のキャラクターであるLiv、Alice、Izarin、XIMENAと、私のキャラクターMoggが交流できる共有世界もつくりました。
Moggは、自分がいつも正しいと思い込んでいる頑固な小さな緑のエルフです。彼のやることはほとんどすべて、笑えるほど間違った方向へ進んでいきます。
私たちは、これらのキャラクターをより大きな物語やコメディシリーズへ発展させたいと考えています。
人々は、日本が私のビジュアルスタイルを変えたのではないかと考えることがあります。
しかし、最も大きな影響は、特定の美学ではありません。異文化を横断して制作する自由です。
PHIは、オランダ的な作品や日本的な作品をつくることではありません。
私たちのどちらか一人では生まれなかったものをつくることです。
AIクリエイティブにおける国際的なコラボレーションは、国籍や文化を混ぜることではありません。
PHIの面白さは、Minouche氏とKasamacura氏がスタイルの違いを無理に統一しようとしていない点にあります。
互いの差異を残したまま、一人では到達できない表現へ進む。
AIによってキャラクター、世界観、映像、物語を柔軟に接続できるようになったいま、異文化コラボレーションは「混ぜる」ことから「共鳴させる」ことへと重心を移しています。
Chapter 12 AIネイティブ制作の未来
AIの3〜5年先を予測するのは容易ではありません。
それでもMinouche氏は、AIが特別なカテゴリーとして目立つ段階から、通常のクリエイティブ制作へ深く統合されていく方向を見据えています。
aratama 璞
今後3〜5年を見据えたとき、AIネイティブなビジュアル制作はどう発展していくと思いますか?
そして、Minoucheさん自身は今後どのような作品や表現を探求していきたいですか?
Minouche Hijkoop
AIにおける3〜5年はとても長い時間なので、具体的な予測には慎重です。
私は、AIが独立したカテゴリーとして目立つものではなく、通常のクリエイティブ制作へより深く統合されていくと考えています。
主な問いは、もはやAIが使われたかどうかではなく、その結果が物語、観客、目的に奉仕しているかどうかになるでしょう。
クリエイティブな役割は、これからも進化し続けます。個人のクリエイターが自分だけでアイデアをより深く発展させることもあるでしょう。
一方で、プロフェッショナルな制作では、脚本家、監督、編集者、VFXアーティスト、サウンドデザイナー、AIスペシャリストの協働が引き続き必要になります。人間の判断、審美眼、感情、経験は、これからも不可欠です。
Shine by Nousでは、品質を重視するブランドやクリエイティブチームとともに、シネマティックで物語性のある制作を続けていきたいと考えています。
PHIでは、共有世界を広げ、Moggをより大きなコメディ世界の土台として発展させたいです。
また、ワークショップやコース、経験豊富なプロフェッショナルから学ぶことにも投資しています。
実験と深い知識を組み合わせることで、より強く、より目的のある作品をつくれると考えています。何よりも、自分自身が本当に見たいと思える作品をつくり続けたいです。
「AIが使われたかどうかではなく、結果が物語、観客、目的に奉仕しているかどうか」——この視点が、AIネイティブ制作の成熟を測る基準になります。
AIが特別な技術として注目される時期は、いずれ過ぎ去ります。そのとき残るのは、ツール名ではなく、作品が人に何を感じさせ、どんな世界を記憶に残したかです。Minouche氏が最後に置いた「自分が本当に見たいと思える作品をつくり続けたい」という言葉は、その基準を最も個人的な形で言い換えたものでしょう。
AIクリエイティブの作家性と制作環境
Minouche Hijkoop氏の言葉から見えてくるのは、AIクリエイティブが単なるツール活用ではなく、視覚言語、制作設計、キャラクターの継続性、国際的な協働、責任あるツール開発を含む、より広い創作環境へと進みつつあるということです。
「AI as a language」という考え方は、AIを効率化の手段から引き離します。
それは、写真、映画、アニメーションと同じように、学び、扱い、発展させていく表現言語です。その言語で何を語り、どんな感情や世界を立ち上げるのかが、これからのAIクリエイターに問われます。
そして「Identity as signal」という言葉は、生成AI時代の作家性を言い当てています。
誰もが高品質なビジュアルを生成できるようになるほど、作品の価値は単一の美しさではなく、全体を貫く判断、構造、リズム、感情、視覚的な署名に宿ります。
AIクリエイターズでは、AIを扱える人を紹介するだけでなく、それぞれのクリエイターが持つ独自の視覚言語、制作思想、世界観、コラボレーションの可能性を可視化し、次の制作機会へ接続していきます。
AIネイティブな表現の未来は、技術の進歩だけで決まりません。人間の想像力、判断、感情、経験、そして異なる才能が出会う制作環境によって形づくられます。
Minouche氏の実践は、その未来へ向けた一つの確かな視点を示しています。AIは創造性の代替ではありません。まだ見えていない世界を、目に見えるものへ変えるための新しい言語です。
制作機会の提供、プロジェクト実装へ
AIクリエイターズでは、AIによって新しい表現を切り拓くクリエイターの発掘、紹介、制作支援、企業・団体との協業を進めています。
AIを活用した映像制作、キャラクター開発、ビジュアルアイデンティティ、広告、コンテンツ制作、国際的なコラボレーションに関心のある方は、目的に応じた入口から詳細をご覧ください。
